裁判所から、突然、労働審判手続申立書と期日呼出状が会社に届くことがあります。解雇した元従業員が「解雇は無効だ」と主張していたり、退職者が未払残業代を求めていたりと、内容は様々です。
そして、期日呼出状には第1回期日と答弁書の提出期限が記載されており、会社は短い期間で対応を迫られることになります。
労働審判とはどのような手続で、申し立てられた会社はどのように対応すべきなのでしょうか。
結論からいうと、労働審判は、通常の訴訟に比べて非常に短い期間で結論が出る手続であり、第1回期日までの準備の質が結果を大きく左右します。本コラムでは、労働審判を申し立てられた会社が取るべき対応について、解説します。
このページの目次
1.労働審判とは
労働審判とは、解雇や賃金など、個々の従業員と会社との間の労働関係の紛争を解決するための裁判所の手続であり、審理は、裁判官(労働審判官)1名と、労使の実務経験者である労働審判員2名で構成される労働審判委員会が行います。労働審判委員会は、まず調停による解決を試み、調停がまとまらない場合には、労働審判という判断を示します。
特徴は、その迅速さにあります。労働審判法15条2項は、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終結しなければならないと定めています。また、労働審判規則13条により、第1回期日は、申立てがされた日から原則として40日以内に指定されます。
そのため、会社が申立書を受け取ってから第1回期日までは、実際には1か月程度しかなく、答弁書の提出期限はそれよりさらに前に設定されるのが通常です。
なお、手続は非公開で行われるため(労働審判法16条)、訴訟のように審理の内容が公開されることはありません。
2.第1回期日までの準備
(1)答弁書の重要性
労働審判では、第1回期日で当事者双方の言い分を直接聴いたうえで、労働審判委員会が事実関係についての心証を形成することが多く、そこで形成された心証を後から覆すことは容易ではありません。労働審判規則27条も、主張と証拠の提出は第2回期日の終了までに終えるよう求めており、訴訟のように主張を小出しにする余地はほとんどありません。
そのため、答弁書には、①申立ての趣旨に対する答弁、②申立書に記載された事実への認否、③答弁を理由づける具体的な事実、④予想される争点とそれに関連する重要な事実、⑤争点ごとの証拠、⑥これまでの交渉の経緯を、初回から的確に記載する必要があります(労働審判規則16条)。
(2)証拠の収集
答弁書と併せて、会社の主張を裏付ける証拠を提出します。
解雇の有効性が争われる事案であれば、就業規則、注意指導の記録、始末書、人事評価、解雇に至るまでの経緯を示す書面等が中心になります。残業代請求の事案であれば、タイムカードや業務日報、賃金台帳、雇用契約書、就業規則等が中心になります。
(3)出席者の選定と準備
第1回期日には、代理人弁護士だけでなく、事実関係を直接説明できる会社関係者(人事担当者、当該従業員の上司等)が出席し、労働審判委員会からの質問に答えることが求められます。質問は、申立書と答弁書の食い違う点を中心に、その場で口頭でされます。
そのため、出席者が事実関係を正確に、一貫して説明できるよう、弁護士の協力のもと、事前に準備しておくことが重要です。
3.期日での進行と解決の形
(1)調停による解決
労働審判委員会は、第1回期日で双方から事情を聴いたうえで、早ければその場で、遅くとも第2回期日には心証を示し、それを踏まえた調停案(解決金の支払等)を双方に提示することが一般的です。
会社としては、審理の見通しと、訴訟に移行した場合の時間・費用や、解決が遅れることで増える金銭的な負担を比較したうえで、調停に応じるかどうかを判断することになります。
実務上、労働審判事件の多くは調停の成立により終了しており、会社にとっても、早期に紛争を終わらせ、他の従業員への波及を防ぐという観点から、調停による解決が合理的な場合は少なくありません。
(2)労働審判と異議申立て
調停が成立しない場合、労働審判委員会は労働審判を行います(労働審判法20条)。
労働審判に納得できない当事者は、審判書の送達等を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議があると労働審判は効力を失い、事件は自動的に訴訟に移行します(同法21条、22条)。
他方、2週間以内に異議が申し立てられなければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます(同法21条4項)。そのため、労働審判の内容を確認し、異議を申し立てるかどうかを期限内に判断しなければならない点にも注意が必要です。
4.会社が避けるべき対応
労働審判では、次のような対応が会社に不利に働く傾向にあります。
第一に、期日を無視したり、答弁書を提出せずに出席したりすることです。労働審判委員会は提出された主張と証拠を前提に心証を形成するため、準備不足は、そのまま会社に不利な判断につながります。
第二に、申立人である従業員本人に直接連絡し、取下げを求めるなどの働きかけをすることです。これは、圧力と受け取られ、会社側の姿勢に対する心証を悪化させるおそれがあります。
第三に、感情的な反論に終始することです。労働審判委員会が知りたいのは、解雇や賃金の判断に関わる客観的な事実であり、従業員の人格に対する非難は、会社の主張の信用性をかえって下げる傾向にあります。
5.労働審判を防ぐために
労働審判の申立ては、多くの場合、その前に従業員側の弁護士からの通知書や交渉の段階を経ています。その段階で的確に対応していれば、労働審判に至らずに解決できたと思われる事案もあります。
また、解雇や賃金の問題は、日頃の注意指導の記録、就業規則の整備、労働時間の管理といった体制が整っているかどうかで、労働審判になった際の見通しが大きく変わります。顧問弁護士に日常的に相談できる体制があれば、解雇の前に有効性を確認し、紛争になる前に手を打つことができます。
6.最後に
今回は、労働審判を申し立てられた会社が取るべき対応について、解説しました。
当事務所は、1983年の創業以来、企業側の代理人として数多くの労働紛争に対応しており、労働審判についても、解雇や残業代、ハラスメントをめぐる事件を中心に多数の対応実績があります。第1回期日までの短い期間で答弁書と証拠を準備し、会社にとって合理的な解決に導くことを重視しています。
労働審判を申し立てられてお困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。
■参考コラム

1983年の創業以来、京都市を拠点に企業法務に注力してきました。現在では、東証プライム上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで、50社以上の顧問弁護士として継続的なリーガルサービスを提供しています。
労働問題、債権回収、クレーム対応、契約書のリーガルチェック、事業承継など、企業活動におけるさまざまな課題に対応しており、数億円規模の訴訟案件など、訴訟・紛争案件の解決実績も豊富です。
京都府(京都市北区・上京区・左京区・中京区・東山区・山科区・下京区・南区・右京区・西京区・伏見区・長岡京市・八幡市・京田辺市・宇治市・亀岡市・城陽市・向日市・福知山市・舞鶴市・綾部市・宮津市・京丹後市・南丹市・木津川市など)、滋賀県、大阪府を中心に、全国の企業様からのご相談にも対応しております。
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