在職中の幹部社員や従業員が、退職や独立の準備として、水面下で同僚や部下に転職の勧誘を行っていた。そのような事実が発覚した際、経営者が受ける衝撃は大きいものです。
では、在職中の従業員による引き抜き行為は、違法となるのでしょうか?
結論からいうと、在職中の従業員による引き抜きは、退職後の元従業員による引き抜きと比べて、違法と判断されやすい傾向にあります。
本コラムでは、在職中の従業員による引き抜きの違法性と、発覚した際に会社が取るべき対応について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説します。
このページの目次
1.在職中の引き抜きが違法と判断されやすい理由
在職中の従業員は、会社に対して、労働契約に付随する義務として、会社の正当な利益を不当に侵害してはならない義務(誠実義務)を負っています。また、在職中の取締役は、会社法上、会社に対する忠実義務を負っています。
そのため、在職中であるにもかかわらず、ライバル会社(転職先)への移籍を画策して、悪質な引き抜きを行った場合には、これらの義務に違反するものとして、違法と判断されやすい傾向にあります。
この点、既に退職した元役員・元従業員は、会社に対するこれらの義務を負わないため、退職後の引き抜きについては、違法と判断される難易度がそれなりに高くなります。在職中の引き抜きとの大きな違いです。
もっとも、従業員には、憲法上、転職の自由が認められています。
そのため、在職中であっても、同僚からの転職の相談に乗ったり、転職に関する情報提供をしたりする程度にとどまる限り、直ちに違法となるわけではありません。
裁判例では、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為である」場合に、違法であり、損害賠償請求が認められるとしています。
上記基準は、退職後の引き抜きにも用いられる基準ですが、裁判例上、在職中の引き抜きについても、この判断枠組みが用いられる傾向にあります。
もっとも、在職中の従業員は誠実義務を負う立場にあるため、同じような態様の勧誘であっても、退職後の引き抜きと比べて、違法であるとの評価がされやすくなります。
2.違法性の判断要素
裁判所は、主に、①引き抜きを主導した者の立場、②引き抜かれた従業員の役職や人数、③会社に及ぼした影響・損害の程度、④勧誘の方法・態様、という4つの要素を総合的に考慮して、違法性を判断しています。
在職中の引き抜きの場合、特に④の勧誘の方法・態様として、次のような事情があると、違法との判断に傾きやすくなります。
■違法の方向に傾く事情の例
①他社に内定している事実を隠して、在職中に社内で移籍の根回しを行った場合
②業務上の打合せがあるかのように装って勧誘の連絡をするなど、会社に知られないよう秘密裏に勧誘を進めていた場合
③引き抜いた従業員らが、業務の引継ぎを一切行わず、突然一斉に退職するよう画策した場合
実際に、東京地裁令和4年2月16日判決は、大手コンサルティングファームの元幹部が、退職の前後を通じて自らのチームの従業員らに働きかけ、従業員4名を引き抜いた事案で、勧誘が積極的かつ秘密裏に行われ、会社の事業に悪影響を及ぼすことを企図したものであったことなどを踏まえて、当該引き抜きを違法と判断し、約5000万円の請求を認めています。
なお、認容額約5000万円のうち大部分は、同社の執行役員規程等に、退任後1年以内に従業員の引き抜きを行った場合には、引き抜かれた従業員の前の1年間の報酬額(賞与金額を含む)相当の金額を支払う旨の定めが存在したことに基づくものです。このほかに、退職慰労金の一部の返還も認められています。
3.在職中の引き抜きが発覚した時に会社が取るべき対応
(1)証拠の収集・保全
まず、勧誘の経緯や態様を裏付ける証拠の収集・保全が重要です。
具体的には、メール、チャットルームのメッセージ、LINE等のSNSのやり取り、関係者の証言などを収集していくことになります。勧誘を断った従業員がいる場合、勧誘の証拠を持っているケースも多いです。
(2)本人への警告
証拠がある程度確保できた段階で、引き抜き行為者本人に対して、引き抜き行為を中止するよう警告することが考えられます。
警告のタイミングや方法を誤ると、証拠隠滅を招いたり、かえって退職の動きを加速させたりするおそれもあるため、弁護士に相談の上、進められることを推奨します。
(3)懲戒処分の検討
在職中の従業員による悪質な引き抜きについては、懲戒処分の対象となり得ます。
但し、懲戒処分を行うためには、就業規則上の懲戒事由に該当することが必要であり、行為の悪質性と処分の重さのバランス(相当性)も問題となります。処分が重すぎると、後に処分自体が無効と判断されるリスクもあるため、慎重な検討が必要です。
(4)退職後に備えた対応
引き抜き行為者が退職する際には、従業員の引き抜きを行わない旨の誓約書の提出を求めるなど、退職後の引き抜きの継続・再発に備えた対応を取っておくことも重要です。
なお、退職済みの人物が在職中にも勧誘行為をしていた場合には、誠実義務・忠実義務を負っていた時代の勧誘行為も問題にできるため、退職後であっても、在職中の行為に関する証拠の収集・保全は重要な意味を持ちます。
4.最後に
今回は、在職中の従業員による引き抜きの違法性と、会社が取るべき対応について、解説しました。
在職中の引き抜きは、会社が早期に気付いて適切に対応できるかどうかで、被害の大きさが変わってきます。少しでも兆候を感じた段階で、早めに弁護士に相談されることを推奨します。
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従業員の引き抜き案件についても、多数の対応実績がありますので、お困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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