企業経営をしていく中で、自社の元役員・元従業員による「従業員の引き抜き」に頭を悩まされるケースは少なくありません。
そこで、今回は、従業員の引き抜きが「違法となる基準」や具体例について、企業側での労働問題に注力する弁護士が解説します。
このページの目次
1.従業員の引き抜きが「違法となる基準」とは?
法律上、従業員の引き抜き行為は、原則として適法とされています。これは、憲法で保障された職業選択の自由に基づき、労働者に転職の自由が認められることが関係しています。そのため、従業員の引き抜き行為が、単なる転職の勧誘や情報提供にとどまる限り、その違法性を問うことはできません。
もっとも、どのような引き抜きであっても許されるわけではありません。
裁判例では、抜き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為である」場合には、違法であり、損害賠償請求が認められるとしています。
つまり適法か違法かを分ける最大の基準は、その引き抜きが、「社会通念上、許される範囲(社会的相当性)を超えて悪質といえるか否か」です。
2.裁判所が違法性を判断する4つの要素
では、具体的にどのような事情があれば、「社会的相当性を逸脱している(=違法)」と判断されるのでしょうか。裁判所は、主に、以下の4つの要素を総合的に考慮して、違法性を判断しています。
なお、以下に挙げる具体例は、全て、「違法」であるとの方向に傾く事情になります。
①引き抜きを主導した者の立場
引き抜きを計画・実行した人物が会社に対して、高い忠実義務を負うべき立場であるほど、違法との判断がされやすくなります。
・引き抜き行為者が会社の経営中枢にいる幹部社員や取締役である場合
・社内で強い影響力や部下への指導権限、人事権を持つ役職に就いていた場合
②引き抜かれた側の役職や人数
引き抜かれた従業員の重要性や、その規模感も大きな判断材料になります。
・引き抜かれた従業員が会社で重要な地位を担っていた場合
・引き抜かれた人数が多い場合
③会社に及ぼした影響・損害の程度
引き抜き行為によって、企業活動にどれだけ影響を与えたかも重視されます。
・主要メンバーが抜けたことで、進行中のプロジェクトや基幹業務が頓挫した場合
・組織に穴があき、会社の業務運営そのものに重大な支障が生じた場合
・会社に多額の金銭的損害が発生した場合
④引き抜き時の勧誘の方法・態様
勧誘の手口や方法が悪質である場合には、違法との判断がされやすくなります。
・他社に内定している事実を隠して、在職中に社内で移籍の根回しを行った場合
・引き抜かれた退職者たちが、業務の引継ぎを一切行わず、突然一斉に退職した場合
・他の従業員に「この会社はもう危ない」などと会社に不利益となる虚偽の情報を吹き込んだり、裏で金銭を供与するなどして転職を勧誘した場合
3.引き抜きの主体による違法性の違い
①在職中の取締役・従業員による引き抜き
比較的違法と判断されやすいです。
なぜなら、在職中の従業員や取締役は、会社に対して、「誠実に勤務し、会社の正当な利益を侵害しない」という義務(忠実義務)を負っているからです。
そのため、在職中であるにもかかわらず、ライバル会社(転職先)への移籍を画策して、悪質な引き抜きを行った場合には、違法と判断されやすい傾向にあります。
②元取締役・元従業員(退職者)による引き抜き
違法と判断される難易度はそれなりに高いです。
なぜなら、退職済みの人物は、会社に対する忠実義務は負わないからです。
ただし、裁判例上は、違法と評価されている事例も複数あるため、弁護士に相談の上、対応を検討されるのが良いと思料いたします。
なお、退職済みの人物が、在職中にも勧誘行為をしていた場合には、忠実義務を負っていた時代の、勧誘行為も問題にできるため、違法と判断される可能性は高まります。
③競合他社(ライバル会社)による引き抜き
違法と判断される難易度はかなり高いです。
競合他社が単独でヘッドハンティングを行う場合、基本的には、正当な自由競争の範囲内とみなされるので、違法性を立証するのは容易ではありません。
もっとも、競合他社が、上記①や②の人物と手を組んで、単なるスカウトの域を超えて、悪質な引き抜きを主導したり、これに加担した場合には、共同不法行為者として、損害賠償請求の対象になり得ます。
4.最後に
今回は、従業員の引き抜きが「違法となる基準」や具体例について、解説しました。
実際に、従業員を引き抜かれてしまい、現在まさにお困りの企業もあるかと思います。そこで、次回のコラムでは、従業員を引き抜かれた際に企業が取るべき具体的な対応について、解説していきます。
当事務所は、1983年の創業以来、企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
今回のような、従業員の引き抜き案件についても、多数の対応実績がありますので、お困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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