信頼していた元役員や元従業員が、退職後、自社の従業員を引き抜いていく。このような引き抜きトラブルは、多くの経営者を悩ませています。
かつては自社のために働いてくれていた相手であるだけに、「裏切られた」と、怒りや悲しさを感じるのも当然のことです。
では、このような引き抜きトラブルが発生した場合、弁護士に相談することには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
本コラムでは、従業員の引き抜きトラブルを弁護士に相談するメリットと、顧問弁護士を活用する意義について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説します。
このページの目次
1.元役員・元従業員による引き抜きの特徴
まず、前提として、実務上、従業員の引き抜きが問題になるのは、主に自社の元役員や元従業員といった、元々自社に所属していた者からの引き抜きです。
元役員や元従業員は、在籍していた時代に、①自社の顧客情報や取引条件、②従業員それぞれの担当業務や待遇、③社内の人間関係といった、内部の事情に精通しています。
そのため、独立や転職を機に、これらの情報を利用して、元の同僚や部下に狙いを定めて勧誘を行うことができ、部外者による引き抜きと比べて、被害が深刻化・拡大しやすい特徴があります。
もっとも、従業員には、憲法上、退職・転職の自由が認められているため、元役員や元従業員による勧誘行為が、直ちに違法となるわけではありません。
裁判例では、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為である」場合には、違法であり、損害賠償請求が認められるとしています。
そのため、自社に大きな損害が発生していたとしても、法的に「違法」と評価され、損害賠償請求が認められるか否かについては、慎重な検討が必要になります。
2.引抜きトラブルを弁護士に相談するメリット
では、引き抜きトラブルを弁護士に相談することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下では、実務上、特に重要と思われるメリットを解説していきます。
(1)違法性の有無について、的確な見通しを得られる
引き抜き行為が違法といえるか否かは、①引き抜きを主導した者の自社在職時の立場、②引き抜かれた従業員の人数や役職、③自社に及ぼした影響・損害の程度、④勧誘の方法・態様などの事情を、総合的に考慮して判断されます。
そのため、違法性の判断に際しては、過去の裁判例の傾向を踏まえた、専門的な検討が不可欠です。
弁護士に相談することで、自社のケースが違法と評価される可能性があるのか、損害賠償請求が認められる見込みがどの程度あるのかについて、的確に見通しを得ることができます。
(2)証拠の収集・保全を適切に進められる
引き抜き行為の違法性を主張するためには、どの従業員が、誰からの勧誘を受けて転職したのかという、引き抜きを裏付ける証拠に加えて、勧誘の経緯や態様を裏付ける証拠も重要になります。
具体的には、メール、チャットルームのメッセージ、LINE等のSNSのやり取り、関係者の証言、退職時期や転職先に関する資料などを収集していくことになります。
なお、引き抜きが行われている場合には、相手方からの勧誘を断った従業員が自社に残っていることも多く、その従業員が勧誘の証拠を持っているケースも少なくありません。
初動の段階から弁護士が関与することで、どのような証拠を、どのような方法で収集・保全すべきかについて、具体的なアドバイスを受けることができます。
(3)請求する損害項目を適切に検討できる
引き抜きが違法と評価された場合でも、裁判所が「損害」として認める範囲には、一定の限界があります。
弁護士に相談することで、売上減少分(逸失利益)や新たな従業員の募集費用など、裁判例の傾向を踏まえて、請求する損害項目を適切に検討することができます。
(4)相手方との交渉や訴訟対応を任せられる
引き抜きトラブルの相手方は、引き抜きを行った元役員・元従業員本人が基本となりますが、事案によっては、その転職先の会社等に対する請求を行うこともあります。
弁護士に依頼することで、誰を相手方として、どのような請求を行うかという方針の検討から、相手方との交渉、内容証明郵便の送付、訴訟提起といった一連の対応を任せることができます。
かつての役員や部下であった相手との直接交渉は、感情的な対立を招きやすく、経営者ご自身で対応するには、大きな精神的負担も伴います。
弁護士が窓口となって対応することで、経営者は本来の業務に専念しながら、冷静に解決を図ることができます。
3.顧問弁護士の活用も有効です
引き抜きトラブルへの対応としては、顧問弁護士の活用も有効です。
第一に、引き抜きトラブルは初動対応が重要になるため、トラブルが発生してから相談先を探すよりも、日頃から自社の状況を把握している顧問弁護士に相談する方が、迅速な対応が可能になります。
第二に、引き抜きトラブルについては、事前の予防策が極めて重要です。
具体的には、①入社時・退職時に誓約書の提出を求めること、②就業規則に引き抜き行為の禁止を規定すること、③違反した場合の退職金不支給・減額規定を設けることなどが、主な予防策となります。
顧問弁護士であれば、自社の実情に即した形で、これらの制度設計についてのアドバイスを受けることができます。
そして、一度、引き抜きトラブルが発生した場合、その後も同じ問題が発生するケースは多いです。だからこそ、トラブルが発生してからの対応だけでなく、日頃からの予防という観点からも、顧問弁護士の活用をご検討頂ければと思います。
■参考コラム
4.最後に
今回は、従業員の引き抜きトラブルを弁護士に相談するメリットと、顧問弁護士を活用する意義について、解説しました。
当事務所は、1983年の創業以来、企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
従業員の引き抜き案件についても、多数の対応実績がありますので、お困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

1983年の創業以来、京都市を拠点に企業法務に注力してきました。現在では、東証プライム上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで、50社以上の顧問弁護士として継続的なリーガルサービスを提供しています。
労働問題、債権回収、クレーム対応、契約書のリーガルチェック、事業承継など、企業活動におけるさまざまな課題に対応しており、数億円規模の訴訟案件など、訴訟・紛争案件の解決実績も豊富です。
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