建設会社の職人・現場監督の引き抜きへの対策とは?弁護士が解説

慢性的な人手不足が続く建設業界では、経験豊富な職人や、施工管理を担う現場監督の獲得競争が激しく、同業他社や独立した元従業員による引き抜きのトラブルが後を絶ちません。

腕の良い職人や現場監督は、一朝一夕には育たない貴重な人材です。引き抜きによってまとめて流出すれば、進行中の工事や受注体制に深刻な影響が生じかねません。

では、建設会社としては、従業員の引き抜きにどのように対応し、備えればよいのでしょうか?

本コラムでは、建設会社の職人・現場監督の引き抜きへの対策について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説します。

1.建設業で引き抜きが多い理由

第一に、建設業界では、建設業許可や現場への技術者配置の要件との関係で、施工管理技士などの資格者を確保する必要があるため、有資格者の獲得競争が激しく、経験者の中途採用ニーズが常に存在します。

第二に、職人の世界では、特定の親方や現場監督との人的なつながりで仕事が回っていることが多く、影響力のある人物が移籍や独立をする際に、その人的関係を利用して、配下の職人へのまとまった勧誘の働きかけが行われやすい面があります。

第三に、建設業は独立開業も比較的多い業界であり、幹部社員が独立して同種の事業を始める際に、気心の知れた部下や職人に声をかけるケースが多くみられます。

このように、建設業の引き抜きは、影響力のある人物を起点として、チーム単位の引き抜きにつながりやすい点に特徴があります。

2.違法となる引き抜きの基準

前提として、職人や現場監督にも、憲法上、退職・転職の自由があります。そのため、より待遇の良い同業他社へ移ること自体は自由であり、元従業員などから勧誘があったというだけでは、違法にはなりません。

裁判例が違法と認めるのは、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超えて、「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為である」と評価できる場合です

その際に裁判所がみているのは、主に、①主導者が自社在職時に置かれていた立場、②引き抜かれた従業員の人数や役職、③会社の業務に生じた支障・損害の大きさ、④勧誘の手段・態様の悪質性、の4点です。これらを総合して、違法かどうかが判断されます。

建設業の事案に即していえば、工事部門の責任者格の人物が主導して、職人や現場監督をチームごと引き抜き、進行中の工事に支障が生じたようなケースでは、違法との判断に傾きやすいと考えられます。

■参考コラム

従業員の引き抜きは違法?企業側の弁護士が解説

3.引き抜かれた時にすべき対応

(1)証拠の収集・保全

まず、どの従業員が、誰からの勧誘を受けて転職したのかという、引き抜きの事実を裏付ける証拠を確保することが重要です。その上で、勧誘の経緯や態様を裏付ける証拠として、メール、LINE等のSNSのやり取り、関係者の証言などを収集していくことになります。勧誘を断って自社に残った職人や現場監督が、勧誘の証拠を持っているケースも少なくありません。

(2)警告・損害賠償請求

証拠がある程度確保できた段階で、引き抜きの主導者に対して、勧誘行為の中止を求める警告を行うことや、違法な引き抜きにより生じた損害の賠償を請求することが考えられます。

損害額については、裁判所の傾向として、引き抜かれた従業員が挙げていた粗利益から、その従業員の給与等の人件費を差し引いた金額を基礎に、概ね1か月から6か月分の範囲で認定されることが多いです。

工事の遅延や失注による損害をどこまで請求できるかは、事案ごとの詳細な検討が必要になります。

■参考コラム

従業員の違法引き抜き|請求できる損害項目と裁判所の傾向

4.建設会社が取るべき予防策

(1)誓約書・就業規則の整備

予防策の中心は、①入社時・退職時に誓約書の提出を求めること、②就業規則に引き抜き行為の禁止を規定すること、③違反した場合の退職金不支給・減額規定を設けることです。

①の誓約書には、従業員の引き抜きを行わない旨の条項に加えて、顧客奪取の禁止や秘密保持に関する条項も、併せて規定しておくことが重要です。建設業では、引き抜きと同時に、施主や元請との取引関係や、見積り・原価に関する情報が持ち出される事案も少なくないためです。

現場監督などの幹部候補には、昇進の時にも誓約書の提出を求めておくと、より実効的です。

(2)外注先の職人(一人親方)への対応

建設業では、雇用する従業員のほかに、外注先の職人(いわゆる一人親方)が施工体制の重要な一角を占めることが多いです。

外注先は自社の従業員ではないため、就業規則による規律は及びませんが、業務委託契約の中に、自社の従業員や他の外注先への引き抜き・勧誘を禁止する条項を設けておくことで、備えることができます。

もっとも、これらの誓約書・就業規則・業務委託契約の規定は、禁止する期間や範囲が広すぎると、かえって無効と判断されるリスクがあります有効性が認められる形に整えるには、期間や対象範囲への限定の付け方が重要になるため、規定の作成に際しては、弁護士に相談されることを推奨します

■参考コラム

従業員の引き抜きを防ぐ誓約書の作り方とは?弁護士が解説

5.最後に

今回は、建設会社の職人・現場監督の引き抜きへの対策について、解説しました。

人材の確保が経営課題そのものである建設業界では、引き抜きへの備えは、施工体制を守るための重要な経営対策といえます。

当事務所は、1983年の創業以来、企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

従業員の引き抜き案件についても、多数の対応実績がありますので、お困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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