従業員の引き抜きを防ぐ誓約書の作り方とは?弁護士が解説

自社の元役員や元従業員による「従業員の引き抜き問題」は、企業が適切に予防しておかないと、長期的にみて大きな損害を被ってしまいます。

そして、引き抜きの予防策の中心となるのが、従業員から取得する「誓約書」です。

では、どのような内容の誓約書を、どのタイミングで取得すればよいのでしょうか?

本コラムでは、従業員の引き抜きを防ぐための誓約書の作り方について、会社側で労働問題に注力する弁護士が解説します。

1.誓約書を取得する法的な意味

まず、前提として、誓約書を取得しておくことの法的な意味を説明します。

従業員の引き抜きを理由に損害賠償請求をする場合の法的根拠としては、①誓約書違反(債務不履行)に基づく請求と、②不法行為に基づく請求の2種類が考えられます。

誓約書がない場合、②の不法行為に基づく請求によることになりますが、この場合、引き抜き行為が「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為である」と言えるだけの事情を、会社側で立証していく必要があります。

他方、引き抜きを禁止する誓約書があれば、①の誓約書違反(債務不履行)を法的根拠とすることができ、会社側の主張・立証がしやすくなります

誓約書は、引き抜きへの心理的な抑止力になるだけでなく、実際に紛争となった際に、会社を守る重要な証拠になるのです。

2.誓約書は「入社時」と「退職時」の2回取得する

次に、誓約書の取得のタイミングですが、従業員が入社する時と退職する時の2回、提出を求めることが重要です。

なお、実務上、退職後に揉めそうな相手ほど、退職時の誓約書の提出を拒否してくるケースが多いです。

そのため、退職時のみならず、「入社時」にも、法的に精度の高い誓約書を巻いておくことが、会社を守るためには重要なのです。

3.誓約書に規定すべき条項

従業員の引き抜き対策として、誓約書に規定すべき条項は、主に次の4つです。

①従業員引抜防止条項

在職中のみならず退職後においても、自社に勤務する従業員の引き抜き行為をしない旨の条項です。引き抜き対策の中核となる条項です。

②秘密保持条項

顧客情報などの営業上の秘密を持ち出さない旨の条項です。引き抜きの際には、顧客情報の持ち出しが同時に行われることも多いため、併せて規定しておくべき条項です。

③顧客奪取禁止条項

自社の顧客を奪う行為を禁止する条項です。従業員の引き抜きと顧客の引き抜きが同時に行われる事案では、会社の損害が特に大きくなる傾向があります。

④競業避止条項

同業他社への転職や同種事業の開業を制限する条項です。後述のとおり、期間や範囲を限定した上で規定することが重要です。

なお、従業員のみならず、取締役などの役員についても、就任時・退任時に、同様の内容の誓約書を取得しておくことが望ましいです。実務上、引き抜きの中心となるのは、社内で影響力を持っていた元役員や幹部社員であることが多いためです。

4.有効性が認められるための限定の方法

誓約書の規定は、その内容が広範にすぎる場合、公序良俗に反し無効と判断されるリスクがあります。

実務上、従業員の引き抜きを禁止する旨の規定は、同業他社への転職自体を禁止する競業避止義務と比べれば、有効と認められやすい傾向にあります。

しかし、無制限な条項の場合、無効とされるリスクもあります。

そのため、次のように、一定の限定を加えておいた方が、規定が有効とされやすいです

〇禁止期間:「退職後1年半」前後

〇禁止範囲:「会社と同一又は類似する事業者への勧誘」など

但し、有効性の判断は、業種や当該従業員の地位・職務内容によっても変わり得るため、自社の実情に応じて、文言を調整することが重要です。

なお、特に、④の競業避止条項については、同業他社への転職そのものを制限するものであるため、有効性の判断はより厳格です。期間や範囲の設定には、より慎重な検討が必要になります。

5.誓約書の提出を拒否された場合の対応

退職時に誓約書の提出を拒否された場合には、会社の方から、入社時に作成してもらった誓約書を提示し、退職後、自社の従業員の引き抜き等を行わないよう警告することになります。

また、入社時の誓約書に加えて、就業規則にも引き抜き行為の禁止を規定しておくことで、退職時の誓約書の提出を拒否された場合にも、備えることができます。就業規則においては、違反した場合には退職金の全部または一部を支給しない(あるいは返還を求める)旨の規定も、加えておくことが重要です。

■参考コラム

従業員の引き抜きを防止するための予防策とは?

6.最後に

今回は、従業員の引き抜きを防ぐための誓約書の作り方について、解説しました。

誓約書は、実際に紛争となった際に、会社を守る重要な証拠になります。もっとも、規定の内容次第では有効性が争われることも多いため、作成に際しては、弁護士に相談されることを推奨します。

当事務所は、1983年の創業以来、会社の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。

従業員の引き抜き案件についても、多数の対応実績がありますので、お困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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