会社宛てに、見慣れない法律事務所の名前で封書が届き、開けてみると、従業員や元従業員の代理人になったという弁護士からの通知書だった、ということがあります。
通知書には、回答期限とともに、未払残業代や解雇の無効といった請求が記載されているのが通常ですが、会社としては、どこまで本気の請求なのか、回答しなければどうなるのかが分からないことも多いと思います。
弁護士からの通知書には、どのような意味があり、会社はどのように対応すべきなのでしょうか。
結論からいうと、通知書が届いた時点は、紛争の入口であると同時に、会社が有利に解決するための準備を始められる最後の段階でもあります。本コラムでは、従業員側の弁護士から通知書が届いた会社が取るべき対応について、解説します。
このページの目次
1.通知書が意味すること
従業員側に弁護士が付いたということは、その従業員が費用をかけてでも請求を実現しようとしている、ということを意味します。会社が回答しなければ、弁護士は次の段階として、労働審判や訴訟の申立てに進むのが通常です。
そのため、通知書を無視しても問題が消えることはなく、むしろ会社側の準備が整わないまま、手続が進んでしまうリスクがあります。
また、通知書には、「今後の連絡は代理人弁護士宛てにされたい」「本人への直接の連絡は控えられたい」という記載があるのが通常です。弁護士が付いた後に会社が本人に直接連絡することは、後の手続で圧力をかけたと評価されるおそれがあるため、避けるべきです。
2.通知書に多い請求の類型
従業員側の弁護士からの通知書で多いのは、次の①から④の類型です。それぞれ、会社の検討すべき点が異なります。
①未払残業代の請求
退職者からの請求が最も多く、過去3年分の残業代と、遅延損害金の支払を求めるものです。
労働時間の記録の有無や、固定残業代の有効性などが主な争点になります。
■参考コラム
元従業員から未払残業代を請求されたら?弁護士が解説
②解雇の無効の主張
解雇した従業員が、解雇は無効であるとして、従業員としての地位の確認と、解雇後の賃金の支払を求めるものです。
解雇事由が就業規則などに定められているかや、解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があるかが主な争点になります。
③ハラスメントに基づく損害賠償請求
上司のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを理由に、会社に対して慰謝料等の支払を求めるものです。行為の有無に加えて、会社が相談を受けた後に適切な対応をしていたかが問われます。
④退職に関する請求
退職勧奨が違法であったとする主張や、退職金の支払いなどを求めるものです。
3.会社が取るべき初動対応
(1)回答期限と請求内容の確認
通知書には、通常、2週間程度の回答期限が設定されています。
まず、期限、請求の内容、請求額の根拠、根拠とされている事実を確認し、会社の認識と食い違う点を整理します。
(2)事実関係の社内調査
請求に関係する上司や同僚から事情を聴き、会社の認識する事実関係をまとめます。
この段階で、会社にとって不利な事実も含めて正確に把握しておくことが、後の見通しを立てるうえで重要です。
(3)証拠の保全
タイムカード、業務日報、注意指導の記録、人事評価、会社が業務用に貸与しているメールやチャットの業務上のやり取りなど、関係する資料を確保します。
従業員側は、在職中に自分に有利な資料(録音、メモ、写真等)を集めていることが多いため、会社側も客観的な記録を揃えておく必要があります。
(4)弁護士への相談
回答書の内容は、その後の交渉や労働審判・訴訟での会社の立場を左右します。回答書で、相手方の主張する事実を十分に確認しないまま認めてしまうと、会社の認識とは異なる前提で事実が確定したものとして扱われ、後の手続で会社に不利に働くことがあります。
そのため、回答書は、社内での事実関係の確認を終えたうえで、弁護士に相談しながら作成することをお勧めします。
4.回答書の出し方と交渉
(1)回答書の内容
回答書では、①請求に対する会社の基本的な立場、②請求の根拠とされる事実に対する認識、③今後の協議の窓口を、簡潔に示すのが一般的です。
詳細な反論や証拠は、事実関係の調査が終わってから、正確なものを提出すべきであり、調査が不十分な段階で急いで細かな主張をすることは避けた方がよいと考えられます。
(2)交渉による解決
通知書の段階で交渉がまとまれば、労働審判や訴訟に至らずに、時間と費用を抑えて解決することができます。
また、合意書に清算条項を盛り込むことで再度の請求を防ぐことができ、口外禁止条項を盛り込むことで、他の従業員への波及をできる限り抑えることも可能です。
もっとも、事案によっては、会社として支払に応じるべきでない請求もあります。その見極めは、証拠と裁判例の傾向に照らして行う必要があるため、弁護士による事案の評価が重要になります。
5.通知書が届く前にできること
弁護士からの通知書は、突然届くように見えて、その前には、従業員の不満が社内で表面化していたり、退職の際にトラブルがあったりすることが少なくありません。
そのため、①退職者との間で退職時に清算に関する合意を交わしておくこと、②解雇や退職勧奨を行う前に弁護士に有効性を確認すること、③労働時間管理や就業規則について、気になる点が生じた時点で弁護士に確認しておくことが、通知書が届く事態そのものを減らすことにつながります。
顧問弁護士がいれば、こうした確認を必要なときにすぐ行うことができ、通知書が届いた場合にも、会社の事情を把握している弁護士が即座に対応することができます。
6.最後に
今回は、従業員側の弁護士から通知書が届いた会社が取るべき対応について、解説しました。
当事務所は、1983年の創業以来、京都・滋賀・大阪を中心とする企業の顧問弁護士として、従業員側の弁護士との交渉、労働審判、訴訟に継続的に対応してきました。通知書が届いた段階で見通しを立て、会社にとって合理的な形で早期に解決することを重視しています。
従業員側の弁護士から通知書が届いてお困りの企業様は、お気軽に当事務所までご相談ください。

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