企業が残業代を適切に支払っているつもりでも、従業員や元従業員から、未払い残業を理由として残業代請求されることは少なくありません。
このような労働トラブルが発生すると、相手方に対応するための時間、労力、コストなどの負担が生じてしまいます。そのため、企業としては、労働時間管理を徹底することが重要です。
そこで、今回は、残業代請求に対応するためにとっておくべき、企業の防衛策についてご説明いたします。
このページの目次
企業が知っておくべき残業代のルール
従業員や元従業員からの残業代請求を回避するためには、企業が残業代に関するルールを正しく知り、適切に残業代を支払うことが前提となります。
そのためには、以下のルールを知っておかなければなりません。
(1)残業代は1分単位で生じる
労働時間が労働基準法で定められた法定労働時間より1分でも超過すると、残業代の支払い義務が生じます。
残業時間を15分単位や30分単位で計上している企業は多いですが、その単位に満たない残業時間を切り捨てると、未払い残業となってしまいます。
(2)割増賃金率はケースによって異なる
法定労働時間を超える残業に対しては、割増賃金を支払う必要があります。その際、割増率の適用を誤ると、未払い残業が発生する原因となってしまいます。
割増賃金率は以下のとおり、ケースによって異なることに注意が必要です
ケース | 割増率 |
時間外労働(月45時間以下) | 25%以上 |
時間外労働(月45時間超~60時間以下) | 25%を超えるよう努める |
時間外労働(月60時間超) | 50%以上 |
休日労働 | 35%以上 |
深夜労働(22時~5時) | 25%以上 |
時間外労働(月60時間以下)+深夜労働 | 50%以上 |
時間外労働(月60時間超)+深夜労働 | 75%以上 |
休日労働+深夜労働 | 60%以上 |
(3)管理監督者には残業代の支払いが不要
「監督または管理の地位にある者」(いわゆる「管理監督者」)に対しては、残業代を支払う必要はありません。
管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、相応の地位と権限が与えられている従業員のことです。
管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく、
- 職務内容
- 責任と権限
- 勤務態様
- 待遇
などの実態によって判断されています。
部長・店長・主任などの管理職であっても、経営者と一体的な立場といえるような実態がなければ「管理監督者」には当たりませんので、その場合は原則どおり残業代を支払わなければなりません。
(4)残業代には時効がある
残業代の支払い請求権は、3年で時効により消滅します。
ただし、2020年3月31日までに発生する残業代については2年で消滅します。
したがって、未払い残業が発生したとしても、残業代の請求権が時効により消滅している場合には、支払いを拒否することが可能です。
残業代請求を回避するための防衛策
残業代のルールを理解していても、労務管理に不備があれば未払い残業が発生することになりかねません。
残業代請求を回避するための防衛策としては、以下のことが有効です。
(1)労働時間管理を徹底する
最も基本的で重要な防衛策は、従業員の労働時間管理を徹底し、残業時間に応じた残業代を正しく支払っておくことです。
タイムカードやICカード、勤怠管理システムなどを活用して、従業員の労働時間を把握しましょう。
従業員や元従業員から不当に残業代を請求された場合に支払いを拒否するためにも、労働時間を正確に記録できるシステムを導入して証拠化しておくことが重要です。
(2)残業を禁止する
そもそも、残業は経営者や上司からの業務命令を受けて行うものです。
残業を禁止しているにもかかわらず、会社の許可なく行われた残業に対しては、残業代を支払う必要がない場合も多いです。
そのため、このことを明確化するためにも、会社としては残業を禁止し、必要な場合には従業員から事前の申請を受けて許可する制度を導入することも有効です。
個別の残業申請と許可した事実も証拠化しておくことが重要なので、文書でやりとりするなどして記録に残す仕組みを作りましょう。
(3)みなし残業代制度を導入する
営業職など日々の労働時間が不規則な従業員に対しては、給与に一定時間の残業代を含む「みなし残業代制度」(固定残業代制度)を導入することも有効です。
ただし、みなし残業代制度を有効に導入するためには、
- 基本給と残業代を明確に区別すること
- 固定残業代が何時間分の残業に相当するのかを明示すること
- 従業員と合意すること
など、一定の条件を満たす必要があります。
また、みなし残業代制度を導入した場合でも、あらかじめ定めた残業時間数を超える残業が発生した場合には、追加で残業代を支払う必要があることにも注意しましょう。
残業代請求をされたときの対処法
企業側が万全な残業代対策を講じたとしても、従業員や元従業員の誤解によって、残業代請求を受ける可能性はあります。
その場合に備えて対処法を知っておくことも、企業側の防衛策として重要です。
もし、未払い残業を理由とする残業代請求を受けたときは、まず、事実関係を確認する必要があります。
そのためにも、労働時間管理を徹底し、残業時間を正確に記録しておくことが必要不可欠です。
従業員や元従業員からの残業代請求が不当な場合でも、無視すると訴訟に発展するおそれがあるため、話し合いによる解決を図ることが望ましいといえます。
当事者同士で話し合うと感情的に対立してしまう場合には、弁護士を間に入れて話し合うことで、穏便かつ適切な解決が期待できます。
残業代対策を万全なものとするためにも、従業員や元従業員との労働トラブルを解決するためにも、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
当事務所は、1983年の創業以来、東証プライム上場企業から中小企業、個人事業主の方の顧問弁護士として、多数の労働問題を解決してきました。
当然、残業代対策や未払い残業代請求への対応経験も多く、残業代に関する労働トラブルへの対応策を熟知していると自負しております。
残業代に関して、お困りの企業の方は、お気軽に当事務所までご相談下さい。