企業が自社の利益を確保するために、債権回収を行うことは必要不可欠ですが、さまざまな事情で債権回収が進まないことも少なくありません。
債権を回収できないまま放置していると、その債権が時効にかかり、権利が消滅するおそれがあることに注意が必要です。
そこで、今回は、債権の時効期間と、消滅時効の完成を阻止するために会社がとるべき具体的な対策についてご説明いたします。
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債権の消滅時効期間
債権の消滅時効は、以下のように債権の種類によって異なります。
(1)短期消滅時効(民法改正前)
2020年3月31日以前に発生した債権のうち、以下のものについては、旧民法における短期消滅時効の規定が適用されます。
時効期間 | 具体例 |
5年 | 賃貸人の賃料 商行為によって生じた債権 |
3年 | 医師.助産師.薬剤師の診療、調剤に関する報酬債権 建築業者.施工業者.設計業者の工事に関する債権 |
2年 | 生産者.小売商人.卸売商人の売掛代金 学習塾の月謝 |
1年 | 料理店や飲食店の飲食代金 旅館やホテルの宿泊代金 運送料 |
2020年4月1日に改正後の新民法が施行されてから既にそれなりの年月が経過していますが、現在でも民法改正前の短期消滅時効の規定が問題になるケースはあります。
(2)契約に基づく債権の消滅時効(民法改正後)
改正後の民法では、短期消滅時効の制度は廃止され、契約に基づく債権の消滅時効期間は以下のとおり統一されました。
- 権利を行使することができることを知った時から5年
- 権利を客観的に行使することができる時から10年
2020年4月1日以降に発生した債権については、この消滅時効期間の規定が適用されます。
(3)不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効
企業間の取引でも、相手方の故意または過失による事故などで損害が生じた場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権が発生することがあります。その消滅時効期間は、以下のとおりです。
- 損害及び加害者を知った時から3年(被害者が怪我または死亡した場合は5年)
- 不法行為の時から20年
債権の時効完成が阻止されるケース
上記の時効期間が経過した場合でも、途中で以下の事情が生じた場合には、時効の完成が阻止されます。つまり、消滅時効が完成しないということです。
(1)時効の更新
時効の更新とは、一定の事由により、それまで進行していた時効期間がリセットされ、そのときから新たに時効期間が進行し始めることです。
主な時効の更新事由として、以下のものが挙げられます。
- 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによる権利の確定
- 強制執行、担保権の実行、担保権の実行としての競売・財産開示手続
- 債務の承認
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定した場合、新たな消滅時効の期間は10年に伸張されます。
(2)時効の完成猶予
時効の完成猶予とは、一定の事由が生じた場合に、一定の期間は時効が完成しないとされる制度のことです。
主な時効の完成猶予事由として、次のものが挙げられます。
- 仮差押え・仮処分
- 催告
- 権利についての協議を行う旨の書面による合意
債権回収で時効が問題となる場合の具体的な対策
消滅時効の完成を阻止して債権を回収するためには、以下の対策が重要になります。
(1)内容証明郵便の送付
消滅時効の完成が間近に迫った時は、内容証明郵便として作成した請求書を相手方へ送付します。
このように裁判外で請求することを「催告」といい、催告した時から6か月間は消滅時効の完成が猶予されます。
催告は口頭や普通郵便の送付でも可能ですが、時効の完成前に催告したことを証拠化するために、内容証明郵便を利用するのが一般的です。
内容証明郵便を送付することで相手方にプレッシャーを掛けることにもなるので、早期の債権回収も期待できます。
なお、この催告を連続でできるとお考えの方も多いですが、法的には一度しか認められないので注意が必要です。
(2)債務者との交渉
内容証明郵便を送っても、すぐに債権を回収できなかった場合は、消滅時効の完成が猶予されている間に債務者と交渉します。
交渉によってもスムーズに債権を回収できない場合には、相手方に債務を「承認」させることが重要です。
承認とは、本人が債務を負っていることを認める意思表示をすることです。具体的には、以下のような言動が承認に当たります。
- 支払いを約束する
- 支払いの延期や分割払いを申し出る
- 債務の一部を支払う(1円でも可)
相手方が債務を承認すれば時効が更新され、新たに5年が経過するまで消滅時効が完成しませんので、時間の余裕が生まれます。
(3)裁判上の請求
交渉がまとまらない場合には、最終的に裁判上の請求をすることになります。裁判上の請求には以下の種類がありますので、状況に応じて適切な手続きを選択しましょう。
- 支払督促
- 民事調停
- 少額訴訟
- 通常訴訟
裁判上の請求が認められ、権利が確定しても相手方が支払わない場合には、強制執行手続きで相手方の所有不動産や動産、預金口座、売掛金債権などを差し押さえて、強制的に債権を回収することが可能です。
債権回収に手間取っていると消滅時効により権利を失ってしまうおそれがありますので、早めに弁護士へご相談の上、適切な対策を講じた方がよいでしょう。
なお、消滅時効が完成した後でも、債務者が時効を援用しなければ権利は消滅しませんので、債権を回収できる可能性はゼロではありません。
当事務所は、1983年の創業以来、東証プライム上場企業から中小企業、個人事業主の方の顧問弁護士として、多数の債権回収案件を解決してきました。
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