企業を経営していく上で、さまざまな労働トラブルが発生することは珍しくありません。
しかし、いったん労働トラブルが発生すると、従業員のモチベーションが低下したり、経営陣もトラブル解決のために時間や労力、コストを要したりして、生産性の低下を招いてしまうでしょう。
そこで、今回は、よくある労働トラブルの事例をご紹介した上で、企業がとるべき予防策について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説いたします。
このページの目次
労働トラブルを予防する重要性
社内で労働トラブルが発生すると、当該従業員のモチベーションが低下することは避けられません。
トラブルの内容によっては他の従業員にも悪影響が及び、離職者が増加するなどして企業全体の生産性が低下するおそれもあります。
企業側は、トラブルを解決するための事実調査や当該従業員との交渉などで、多大な時間や労力の負担を覚悟する必要があるでしょう。
話し合いで解決できずに裁判に発展すれば、解決までに数年を要することも珍しくありません。企業側が敗訴した場合には、慰謝料や未払い賃金などの支払いで、経済的にも大きなダメージを負う可能性があります。
このように、労働トラブルが発生してしまうと、事後的に解決できたとしても、企業に大きな負担がかかる可能性が高いです。
そこで、企業の健全な経営を維持するためには、未然に労働問題回避のための予防策をとっておくことが重要となります。
よくある労働トラブルの事例
労働トラブルには多種多様なものがありますが、ここでは、よくあるトラブル事例をご紹介します。
(1)ハラスメントに関するトラブル
パワハラやセクハラなどのハラスメント(嫌がらせ、いじめ)は、従業員のモチベーション低下による業務の停滞を招く可能性が高いです。職場環境が悪化し、離職者が増加するなどして企業の業績悪化につながることにもなりかねません。
それだけでなく、被害を受けた従業員から慰謝料などの損害賠償を請求された場合には、企業が安全配慮義務違反や使用者責任に基づく賠償義務を負うこともあります。
ハラスメント問題はパワハラやセクハラだけでなく、マタハラ(妊娠中や出産後の女性従業員への嫌がらせ)、アルハラ(飲酒を強要する嫌がらせ)、その他にも、さまざまな種類のものがあることに注意が必要です。
(2)残業代など賃金に関するトラブル
残業代の未払いをめぐるトラブルは後を絶ちません。
サービス残業を強いることが、法律上認められないのは分かりやすいですが、残業代は1分単位で支払う必要があることに注意しましょう。
原則として、15分単位や30分単位などで残業代を計算する場合には、端数の時間は切り上げて支払う必要があります。
その他にも、賞与や退職金の金額や支給条件をめぐるトラブル、昇給や昇格の基準をめぐるトラブル、正社員と非正規社員との待遇格差をめぐるトラブルなど、賃金に関するトラブルが数多く発生しています。
(3)労働時間や休暇取得に関するトラブル
長時間残業や休日出勤が多いと、従業員の心身に疲労が蓄積して不満が募ることから、トラブルが生じやすくなります。
また、有給休暇を取得したくても取得できない、取得したいときに取得できない、といって、従業員が労基にかけこむことも多いようです。
特に、企業が、年10日以上の有給休暇が付与される従業員に対して、最低年5日の有給休暇を取得させる義務に違反した場合には、弱い立場に立たされるので注意が必要です。
時間外労働の上限や有給休暇の取得義務は労働基準法で定められていますが、守られていない職場も少なくないようです。
(4)解雇や懲戒処分に関するトラブル
企業は、就業規則違反やその他の問題行動を起こした従業員に対して制裁を科すことができます。しかし、従業員を解雇するためには非常に厳しい要件を満たす必要があるため、実際には不当解雇に該当する事例が多いのが実情です。
解雇以外の、降格や出勤停止、減給などの懲戒処分についても、処分が重すぎる、適正な手続きが守られていない、などのトラブルが多く発生しています。
(5)労働災害に関するトラブル
従業員が業務上または通勤中の事故で疾病を負った場合には、労災保険を申請することが考えられます。
しかし、労災保険が適用されても慰謝料が補償されないなどの問題があるため、別途、企業が高額の賠償義務を負わなければならないこともあります。
被災した従業員や遺族が労災保険の申請を希望する場合、企業はその手続きをサポートする義務があることにも注意しましょう。
労災隠しをすると、企業側に刑事罰が科せられることにも注意が必要です。
労働トラブルの予防策
労働トラブルを予防するためには、企業と従業員の双方がルールを守る必要があります。
そのためには、まず、企業が適正なルールを定めた上で、従業員を啓発していくことが重要です。
以下で、具体的な予防策をみていきましょう。
(1)就業規則や雇用契約書の整備
まずは、就業規則で、企業の実態に見合ったルールを定めることが欠かせません。
中小企業の中には就業規則を作成していない会社も見受けられますが、明確な社内ルールが定められていなければ、労働トラブルを招く元となります。
就業規則を定めている会社でも、ひな形をそのまま使っている場合には、企業の実態に見合った内容になっていない可能性が高いです。
また、労働関係法令は改正が繰り返されている上に、労働問題に関する新しい判例も次々に出ていますので、時代の変化に応じて就業規則の内容を見直していくことも必要です。
個別の従業員との約束事がある場合には、雇用契約書に明記しておきましょう。
雇用契約書を作成していない場合は新たに作成した方がよいでしょうし、作成している場合でも内容が不十分な場合には、労使で再協議の上、作成し直す方が望ましいといえます。
(2)労務管理の徹底
賃金や労働時間に関するトラブルを予防するためには、勤怠管理を徹底することが不可欠です。
また、ハラスメント問題や、従業員の問題行動による解雇をめぐるトラブルなどを防止するためには、各従業員の労働状況を把握し、職場環境を健全に保つように管理することも重要となるでしょう。
労災をめぐるトラブルを防止するためには、社内の設備状況や、業務ごとの作業手順なども把握し、事故のリスクを回避するための安全管理も必要となります。
(3)研修会の実施
従業員に社内ルールを理解してもらい、守ってもらうためには、定期的に研修会を実施することが有効です。従業員への講義や講演だけでなく、ロールプレイングなども取り入れると、研修の効果がより高まります。
職場ごとにミーティングを実施し、働きやすい職場作りについて、こまめに話し合うのもよいでしょう。
(4)従業員向けの相談窓口の設置
労働トラブルは多くの場合、経営陣が気付かないところで発生するものです。
トラブルが深刻化する前に対処するためには、悩みを抱えた従業員から早めに相談してもらう必要があります。そこで、社内に従業員向けの相談窓口を設置することが重要となります。
ただし、社内の相談窓口では、従業員が報復や不利益処分を恐れて、相談しにくいことも考えられます。
気軽に相談してもらうためには、弁護士の事務所などに依頼して、社外の相談窓口を設置することも検討するとよいでしょう。
最後に
今回は、企業でよくある労働トラブルの事例と予防策について、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説しました。
労働トラブルは単なる人間関係のトラブルではなく、民法や労働関係法令にかかわる法的なトラブルです。予防するためには、リスク管理を徹底した上で、法的対策を検討することも欠かせません。
そのためには、専門的な法律の知識が要求されますので、弁護士へのご相談をおすすめします。京都の益川総合法律事務所では、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
豊富な実績を踏まえて、企業側の労働法務への支援体制を整えております。労働トラブルの予防策をお考えの企業経営者の方やご担当者の方は、お気軽にご相談ください。