企業経営をしていると、元従業員が自社の顧客を引き抜いてくることもあります。
しかし、このような顧客引き抜きを放置すると、企業にとって大きな損害が発生します。
そこで、今回は、元従業員からの顧客引き抜きに対する防止策を、弁護士が解説します。
このページの目次
1.誓約書の提出を求める
まずは、従業員の入社時及び退職時に、誓約書の提出を求めることが考えられます。
では、誓約書にどのような内容を記載すれば良いのでしょうか。
(1)顧客との取引を禁止する
まずは、端的に、退職後に自社の顧客との取引を禁止する内容が考えられます。
但し、裁判所から誓約内容を無効とされないように、①取引を禁止する顧客の範囲、②取引を禁止する期間について、定めておくのが良いです。
例えば、①の禁止範囲については、会社在職時に担当していた顧客に限定することが考えられます。
また、②の取引禁止期間については、1年間又は2年間などに、限定することが多いです。
(2)顧客情報の持ち出しを禁止する
次に、顧客情報の持ち出しを、禁止する内容が考えられます。
顧客情報が会社の機密情報であることを確認した上で、退職後においても顧客情報を利用してはならないなどと規定することが考えられます。
(3)競合行為を禁止する
次に、退職者の競業行為自体を禁止する方法も考えられます。
この場合には、①会社と競合する他社に就職したり、会社と競合する事業を営むことを禁止することになります。
但し、期間制限を行わないと、裁判所から無効と判断されるので、②期間についてはどれだけ長くとも、2年間と記載しておくのが一般的です。
なお、近年では、2年間の期間制限について、否定的に考えている裁判例もあるため、期間で否定的な見解を持たれたくないのであれば、6ヶ月から1年間程度の期間にしておくのが無難です。
(4)弁護士に相談を
顧客引き抜き防止のための誓約書を作成する際には、必ず、弁護士に相談するのをおすすめします。
なぜなら、このような誓約書は、裁判において無効とされるケースも多いからです。
そうなると、肝心な場面で効力が発揮されず、誓約書の存在が無意味なものになってしまいます。
そのため、誓約書や後述の就業規則の記載については、弁護士に相談の上、作成することを強くおすすめします。
2.就業規則に記載する
次に、就業規則にて、顧客の引き抜きを防止することが考えられます。
内容については、誓約書の際と同様、①顧客との取引禁止、②顧客情報の持ち出し禁止、③競合行為の禁止になります。
また、就業規則に、④上記の規定に違反した場合に、退職金を減額又は不支給とする規定を策定しておくことも考えられます。
基本的に、この場合、退職金が既に支払済みなので、退職金が支払済の時は返還請求を行うといった規定もセットで入れておく形になります。
3.顧客の引き抜きが判明した場合
実際に、元従業員による顧客引き抜きが判明した場合には、相手方に対して、損害賠償請求を行っていくことが考えられます。
せっかく、誓約書や就業規則を適切に作成しても、違反者に対して損害賠償請求を行わないのであれば、今後、違反者が増加していく可能性が高いです。
そのため、違反者に対しても、適切に対応していくことが重要です。
4.顧問弁護士の活用も
顧客の引き抜きに対する防止策を打ちたい企業様は、顧問弁護士の活用もご検討ください。顧問弁護士がいれば、その企業の実情を踏まえて、適切に防止策を講じることができます。
また、経験上、顧問弁護士がいる場合には、顧客を引き抜かれることも少なくなる印象です。
これは、事前の防止策に加えて、引き抜く側も、実際に引き抜き行為をした場合には、その顧問弁護士が対応してくることが分かるためです。
5.最後に
今回は、元従業員からの顧客引き抜きに対する防止策について、解説しました。
重複になりますが、誓約書や就業規則の規定については、必ず、弁護士に相談するのをおすすめします。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、多くの労働紛争を解決して参りました。
顧客の引き抜きについて、お困りの事業者の方は、お気軽に、当事務所までご相談頂ければと思います。
※当事務所は、本コラムにおいて法的助言を提供するものではありません。
個別の案件については案件ごとの具体的な状況に応じ、弁護士に相談の上、ご対応ください。

1983年の創業以来、京都市を拠点に企業法務に注力してきました。現在では、東証プライム上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで、約50社の顧問弁護士として継続的なリーガルサービスを提供しています。
労働問題、債権回収、クレーム対応、契約書のリーガルチェック、事業承継など、企業活動におけるさまざまな課題に対応しており、数億円規模の訴訟案件など、訴訟・紛争案件の解決実績も豊富です。
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