病院やクリニックなどの診療報酬は、大部分が健康保険から支払われますが、1~3割は患者本人から支払ってもらわなければなりません。
動物病院では、ペット保険から診療報酬が支払われることもありますが、飼い主から全額支払ってもらう必要があることも多いでしょう。
そこで、今回は、医療機関の診療報酬に関する債権回収の方法や注意点について、ご説明いたします。
このページの目次
診療報酬の債権回収を弁護士に依頼せずに行う方法
最初に、弁護士に依頼しなくても行いやすい、比較的に簡便な債権回収の方法をご紹介します。
(1)電話や文書による催促
診療報酬が未払いの患者さんに対しては、まずは電話や請求書の送付(普通郵便)などで支払いのお願いをすることになるでしょう。
単に支払いを忘れていた患者さんなどは、催促すれば、すぐに支払ってくれることもあります。
未払いを長期間放置せず、速やかに催促しましょう。
(2)内容証明郵便の送付
電話や文書(普通郵便)による催促を繰り返しても支払われない場合は、内容証明郵便の送付が有効です。
格式のある体裁の請求書を送付することにより、相手に心理的なプレッシャーを与えることができます。
通常、内容証明郵便には、「○週間以内にお支払いいただけない場合には、法的措置を検討せざるを得ません」などの警告文言も記載します。
このような文書を受け取った相手方は、「早めに支払わなければ裁判を起こされる」と考えるため、速やかな債権回収が期待できるのです。
(3)保険者徴収制度の利用
診療報酬の未払い額が60万円を超えた場合は、保険者徴収制度を利用できる可能性があります。
保険者徴収制度とは、健康保険組合などの保険者が滞納処分として、未払いの診療報酬の回収を図ってくれる制度のことです。
ただし、この制度を利用するためには、医療機関において債権回収の努力を一定程度しておくことが条件とされています。
そのため、まずは電話などでの催促や、内容証明郵便の送付などを行っておかなければなりません。
(4)支払督促の申し立て
未払いの診療報酬がなかなか支払われない場合には、裁判手続きも必要になってきます。
しかし、通常訴訟の手続きは複雑なので、弁護士に依頼しなければ的確に進めることは難しいのが実情です。
簡易的な裁判手続きとしては、支払督促というものがあります。
支払督促とは、簡易裁判所への申し立てにより、簡単な書類審査のみで、債務者に対して支払を命じてもらえる手続きのことです。
債務者が異議申し立てをしなければ、強制執行手続によって債務者の財産を差し押さえることもできるようになります。
ただし、債務者が異議申し立てをすると、通常訴訟の手続きに移行することに注意が必要です。
(5)少額訴訟の提起
診療報酬の未払い額が60万円以下の場合は、少額訴訟も利用できます。
少額訴訟の手続は通常訴訟よりも簡素化されており、原則として1回の期日で結審し、判決が言い渡されます。
ただし、相手方が少額訴訟に同意しない場合や、判決に対して異議申し立てをした場合には、通常訴訟の手続きに移行することに注意しなければなりません。
診療報酬を請求する際の注意点
未払いの診療報酬を請求する際には、以下の点に注意が必要です。
(1)執拗な請求や高圧的な態度での請求は避ける
執拗な請求や高圧的な態度での請求で患者さんを追い込むと、SNSなどで悪評を拡散され、医療機関のイメージ低下を招くおそれがあります。
連日のように電話を掛けたり、自宅訪問をして高圧的な態度で請求したりすることは控えましょう。
(2)患者によって対応を変えない
患者さんによって厳しく追及したり、逆に放置したりなど、対応にバラツキがあると患者さんの不満を招きやすくなります。
SNSなどに「○○クリニックでは治療費を踏み倒せる」などの書き込みをされることにもなりかねません。
債権回収の手順はマニュアル化しておき、どの患者さんに対しても同じ対応をとるように心がけましょう。
(3)診療報酬の時効期間は5年
従来、診療報酬の時効期間は3年でしたが、民法改正により、2020年4月1日以降に発生した債権の時効期間は5年とされています。
未払いが3年以上続いていても回収できる可能性がありますので、諦めずに請求しましょう。
(4)診療報酬が未払いでも診療を拒否できない
医師は、正当な事由がなければ診療を拒んではならないという応召義務を負っています。
そして、診療報酬の未払いは基本的に「正当な事由」には該当しません。したがって、診療報酬が未払いの患者さんが来院した場合にも、原則として診療を拒否することはできないのです。
その結果、未払い額が積み重なっていくおそれがありますので、診療に応じながらも、適切に債権回収を図っていくことが重要となります。
診療報酬の債権回収を弁護士に依頼するメリット
債権回収は、簡易的な方法のみでは限界があります。最終的には、通常訴訟や強制執行(差押え)といった本格的な手段を要することも少なくありません。
そのため、診療報酬の債権回収で困ったときは、弁護士へのご相談をおすすめします。弁護士は、債権回収に関する豊富な知識と経験に基づき、状況に応じた最適な解決方法についてアドバイスしてくれます。
債権回収を弁護士に依頼すれば、弁護士名義の内容証明郵便を送付するだけで未払い金を回収できることもよくあります。
法的措置が必要な場合も、弁護士が迅速かつ的確に手続きを進めてくれます。診療報酬の未払いは放置せず、弁護士の力を借りて早期に回収してしまった方がよい場合もあります。
当事務所は、1983年の創業以来、東証プライム上場企業から中小企業、個人事業主の方の顧問弁護士として、多数の債権回収案件を解決してきました。
診療報酬の未払いでお困りの際は、お気軽に当事務所までご相談下さい。