請負代金は、原則として請け負った仕事を完成した後に請求することになります。
しかし、特に建設業では請負代金が高額となることも多く、仕事の完成までに多額のコストを費やしているのが通常です。そのため、請負代金をスムーズに回収できなければ、会社の経営に重大な悪影響が及んでしまうでしょう。
そこで、今回は請負代金を請求できる条件や回収方法、よくあるトラブルへの対処法などについてご説明いたします。
このページの目次
請負代金を請求できる条件
はじめに、請負代金を請求するために満たすべき条件を確認しておきましょう。
(1)仕事を完成したこと
請負契約は、当事者の一方が仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。したがって、請負代金を請求できるのは、原則として請け負った仕事を完成した後になります。
ただし、仕事の完成前でも、注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合など、一定の条件を満たす場合には、それまでの仕事の結果に応じて報酬を請求できる場合もあります。
また、当事者間の契約によって請負代金の支払時期を決めることも可能です。建設工事の請負契約などでは、着手時、中間時、引渡し時などの形で、段階的に報酬が支払われることも多いです。
(2)目的物を引き渡したこと
請負代金は、完成した目的物の引き渡しと同時に支払われるのが原則です。
ただし、契約にて、上記とは異なる形で、請負代金の支払時期を定めた場合には、その契約内容に従うことになります。
したがって、請負代金を請求する際には、契約書で定めた支払い条件を満たしているかを確認することが大切です。
請負代金を請求・回収する方法
請負代金を請求し、回収する方法は、一般的な債権回収の方法と同じです。
契約上の支払い条件を満たしているにもかかわらず相手方が支払わない場合には、まず、電話などで催促することになるでしょう。
スムーズに支払われない場合には、内容証明郵便の送付によって請求し、必要に応じて交渉します。
それでも支払われない場合には、裁判(支払督促、少額訴訟、通常訴訟など)を経て、強制執行を申し立て、相手方の財産を差し押さえることになります。
請負代金の請求でよくあるトラブルと対処法
次に、請負代金の請求でよくあるトラブルと、その対処法をご紹介します。
(1)契約書を交わしていない
建設業界では、そもそも請負契約書を交わさずに工事が行われることも珍しくありません。
契約書を交わした場合でも、ひな形をそのまま流用した場合には、契約内容が正確に反映されていないこともあります。
- このような場合には、
- 請け負った仕事の内容
- その仕事に対する請負代金の額
- 仕事が完成したこと
を証明することが必要です。
契約内容を証明する際には、見積書や契約メモ、LINEのやり取り、過去の発注の際の単価や条件など、なるべく客観的な資料を探しましょう。
(2)仕事を完成したか争いがある
請負人は仕事を完成したと考えていても、注文者はまだ完成ではないと判断し、請負代金の支払いを拒否することもあります。
この場合も、どこまで仕事を進めれば完成したことになるのかについて、契約書の内容を確認することが重要です。
契約書を交わしていないか、交わしていても仕事の完成に関する明確な記載がない場合には、他の客観的な資料で請け負った仕事内容を証明することがポイントとなります。
(3)追加・変更工事の代金で意見が対立する
追加工事や変更工事を行った場合は、追加代金の要否や金額をめぐって当事者の意見が対立しがちです。
請負人は有料で追加・変更工事を行ったと認識しているのに対して、注文者はサービスで行ってもらったと認識していることはよくあります。
このようなトラブルは、追加・変更工事を行う際に、その契約書を交わしていないことが原因で発生することが多いです。
当初の請負契約の際に契約書を交わしていても、追加・変更工事の際に改めて契約書を交わすことなく工事を進めてしまうと、トラブルが生じやすいので注意しましょう。
追加・変更工事の代金をめぐってトラブルが生じた場合には、やはり、約束した工事の内容と、その代金額について、なるべく客観的な資料で証明することが重要です。
(4)引き渡した目的物に不具合がある
引き渡した目的物に不具合がある場合は、民法上、注文者からの補修請求や請負代金の減額請求、損害賠償請求、契約解除が可能とされています。
問題は、仕事の目的物に、契約内容に適合しないような「不具合」があるかどうかです。契約内容に適合する品質の目的物を引き渡したのであれば、注文者がその品質に満足しなかったとしても、請負人は請負代金の全額を請求できます。
補修請求や損害賠償請求、契約解除などに応じる必要もありません。そのためには、やはり、品質などに関する契約内容を証明することが必要です。
なお、新築住宅の建設工事の請負契約においては、住宅の主要な部分や雨水の浸入を防止する部分に不具合があった場合は、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)が適用されることに注意が必要です。
事業者としては、リスクに備えて、保険に加入しておくことも重要となるでしょう。
(5)注文者の資金繰りが厳しい
請負契約の内容や目的物の品質などに問題がなくても、注文者の資金繰りが厳しいために、請負代金がスムーズに支払われないこともあります。
このような場合には、状況に応じて対応方法を検討することが重要です。
支払期限を猶予したり、分割払いを認めたりすることで支払いが見込める場合には、注文者と交渉した上で、改めて支払い方法を取り決めるのもひとつの選択肢となります。
この場合には、注文者が支払義務を負うことを確認することを含めて、新たに取り決めた内容を合意書(書面)にしておくのがおすすめです。注文者が倒産する可能性がある場合には、早急に債権の回収を図った方がよいこともあります。
この場合には、支払督促の申し立てなどの簡易的な裁判手続きを選択し、強制執行の手続きまでを迅速に進めることが有効です。
請負代金の請求を弁護士に相談・依頼するメリット
請負代金の請求で困ったときは、弁護士への相談がおすすめです。債権回収に関する豊富な知識と経験に基づき、状況に応じて最適な請求方法についてのアドバイスが受けられます。
適切に請求してもスムーズに請負代金を回収できない場合には、弁護士へのご依頼を検討してみてはいかがでしょうか。
弁護士から内容証明郵便を送付してもらったり、交渉してもらったりするだけで、相手方がすぐに請負代金を支払うこともあります。
それでも相手方が支払わない場合には、裁判や強制執行の手続きを弁護士が的確に進めてくれます。
当事務所は、1983年の創業以来、中小企業の顧問弁護士として、請負代金の請求や債権回収に関する案件を解決してきました。
請負代金の請求をお考えの際は、お気軽に当事務所までご相談下さい。