飲食店の立退きでは、ほとんどのケースで「立ち退き料」が必要となり、交渉の場面では、その立ち退き料が適正かどうかが問題になることが多いです。
そこで本記事では、借主側の立ち退き案件に注力する弁護士が、飲食店の「立ち退き料の相場」について、近年の裁判所の判断をもとに解説します。
このページの目次
1.立ち退き料とは
「立ち退き料」とは、建物明け渡しにより借主が被る移転費用やその他の損失を補償するための金銭を指します。
法律上、貸主が契約更新を拒絶したり、解約を申し入れるためには、借地借家法28条の「正当事由」が必要とされています。この「正当事由」を補充するための要素として、「立ち退き料」が位置付けられています。
実務上、立ち退き料の金額は、極めて重要な要素となっており、立ち退き料がいくらになるか次第で、借主側の決断が変わるケースも決して珍しくありません。
2.飲食店の立ち退き料の相場
それでは、飲食店の「立ち退き料」の相場は、どれぐらいなのでしょうか。
近年の裁判例を6つまとめましたので、是非参考にされて下さい。
(1)居酒屋の事例
東京地裁令和4年10月28日判決は、居酒屋の事例で、立退料として3058万円を認めました。
■前提情報
使用目的:居酒屋
月額賃料:20万2000円
賃借期間:50年
■立退料の認定額
3058万円
■立退料の内訳(アとイの合計金額)
ア 立退きによって生じる損失補償額(合計2550万円)
①家賃補償201万8000円
②営業補償2039万円
③設備機器317万円
上記①から③の合計を端数調整して、2550万円という損失補償額を認定しました。
イ 隣地との併合による増額分(508万円)
貸主側が隣地を所有し、立退きの対象不動産と隣地を併合して有効利用が可能となることによる増分価格508万円を加算しています。
(2)喫茶店の事例
東京地裁令和5年3月23日判決は、喫茶店の事案で、立退料として1940万円を認めました。
■前提情報
使用目的:喫茶店
月額賃料:27万円
賃借期間:20年
■立退料の認定額
1940万円
■立退料の内訳(アとイの合計額)
ア 借家権価格の補償
1610万円
※借家権とは、借地借家法が適用される建物の賃借権のことを言います。
そして、借家権価格の補償とは、借主は、借家権自体に認められる財産的価値を建物の明渡しに伴い、喪失することから、これを補償しようとするものです。
イ 通常生じる損失に対する補償額(合計330万円)
①内部造作等の補償約100万円
②仲介業者の報酬約55万円
③移転先選定調査費用等10万円
④引越し費用その他移転関連雑費約165万円
(3)食堂(定食屋さん)の事例
東京地裁令和4年8月3日判決は、食堂(定食屋さん)の事例で、立退料として2037万5000円を認めました。
■前提情報
使用目的:飲食店
月額賃料:30万円
賃借期間:10年
■立退料の認定額
2037万5000円
■立退料の内訳(アとイの合計額)
ア 借家権価格(800万円)
1200万円と認定した上で、「正当事由」の補完の観点から、3分の2の800万円を立退料の算定の基礎としました。
イ 損失補償(合計1237万5000円)
①工作物補償970万円、
②移転雑費(仲介手数料・移転通知費・就業不能補償)67万5000円
③営業補償を400万円(利益の2年分)
上記①から③の金額を認定した上で、「正当事由」の補完の観点から、③については2分の1である200万円を立退料の算定の基礎としました(①と②は全額立退料の算定の基礎とされています)。
■なぜ金額が減額されているのか(細かい話)
・理論上の話
借地借家法28条により、貸主が契約更新を拒絶したり、解約を申し入れるためには「正当事由」が必要とされています。
そして、この「正当事由」は、①「当事者双方の使用の必要性」が最も重要な要素とされ、補充的に、②「賃貸借に関する従前の経過」、③「建物の利用状況」、④「建物の現況」、⑤「立退料の提供(金額)」の有無を考慮して、総合的に判断されます。
そのため、「立ち退き料」は、あくまでもこの「正当事由」を補充するための要素として、位置づけられているにすぎず、他の正当事由の要素の強弱によって、金額の調整があり得るという特性があります。
それゆえ、裁判例によっては、他の正当事由の要素(特に当事者双方の使用の必要性)の強弱によって、金額を調整しているものも見られ、上記事案は、まさしくそのような事案となっています。
・実際のところ(執筆弁護士の私見)
「立ち退き料」に関する多くの裁判例を分析していても、本事案のように、他の正当事由の要素の強弱によって、金額の調整をしている裁判例は少数派のものになります。
この少数派の裁判例を見ていると、結局のところ、裁判官の感覚からして、「立ち退き料」の金額が高くなりすぎた時に、後付けで理屈を付けて、「立ち退き料」の金額を調整している(下げている)のではないかと考えられます。
例えば、本事案では、金額を下げなかった場合の立退料は、2637万5000円でした。
本事案の月額賃料は30万円ですので、金額を下げなかった場合、立退料は、月額賃料87か月分になります。
裁判例によっては、これぐらいの立退料を認めているものもありますが、問題は本事案の場合、賃借期間が10年にすぎない点です。
金額を下げなかった場合、立退料が7年分以上の賃料に相当するわけで、貸主側は立退料を支払えば3年分の賃料も回収できないことになります。
私見としては、裁判官は、このような事情も加味して、後付けで理屈を付けて、金額を下げたのではないかと考えています。
(4)韓国料理店の事例
東京地裁令和3年11月9日判決は、韓国料理店の事案で、立退料として1838万2000円を認めました。
■前提情報
使用目的:飲食店
賃借期間:9年
月額賃料:19万6460円(管理費込み)
■立退料の認定額
1838万2000円
■立退料の内訳(アとイの合計金額)
ア 借家権価格の補償
690万7000円
※借家権とは、借地借家法が適用される建物の賃借権のことを言います。
そして、借家権価格の補償とは、借主は、借家権自体に認められる財産的価値を建物の明渡しに伴い、喪失することから、これを補償しようとするものです。
イ 移転補償額(下記①から④の合計1147万5000円)
①動産移転補償28万1000円
②借家人補償327万2000円
③移転雑費128万円
④営業休止補償664万2000円
(5)タイ料理店の事例
東京地裁令和3年11月9日判決は、タイ料理店の事案で、立退料として1744万2000円を認めました。
■前提情報
使用目的:飲食店
賃借期間:9年
月額賃料:19万5610円(管理費込み)
■立退料の認定額
1744万2000円
■立退料の内訳(アとイの合計金額)
ア 借家権価格
681万10000円
イ 移転補償額(下記①から⑤の合計1063万1000円)
①動産移転補償28万1000円
②工作物補償12万4000円(居抜きでの入居のため低額になっています)
③借家人補償192万1000円
④移転雑費127万6000円
⑤営業休止補償702万9000円(営業休止期間6か月分)
(6)ラーメン店の事例
東京地裁令和4年5月25日判決は、ラーメン店の事案で、立退料として855万9086円を認めました。
■前提情報
使用目的:ラーメン店
月額賃料:19万円
賃借期間:20年
■立退料の認定額
855万9086円
■立退料の内訳(①から⑤の合計額)
①新しい賃貸借契約のための初期費用合計204万5000円
(保証金・敷金150万円、礼金25万円、仲介手数料27万5000円、火災保険料2万円)
②移転費用460万円
③動産解体費用及び雑費100万円
④休業補償30万4695円(3か月分)
⑤家賃増加による営業利益低下分60万9391円(2年分)
3.飲食店の立ち退き料の相場に関する考察
上記で紹介した6つの裁判例を見てみると、月額賃料と立退料の対応関係は、下記の形になります。
(1)居酒屋の事例→月額賃料151か月分(立退料3058万円)
(2)喫茶店の事例→月額賃料71か月分(立退料1940万円)
(3)食堂の事例→月額賃料67か月分(立退料2037万5000円)
(4)韓国料理店の事例→月額賃料93か月分(立退料1838万2000円)
(5)タイ料理店の事例→月額賃料89か月分(立退料1744万2000円)
(6)ラーメン店の事例→月額賃料45か月分(立退料855万9086円)
一般的に、店舗やテナントの立ち退き料の相場は、月額賃料の2年~3年分程度と言われています(執筆弁護士の肌間隔としては、月額賃料の50か月分が目安となっている印象です)。
他方、上記の通り、飲食店の事案については、その相場よりも、高い立ち退き料が認められる傾向にあります。
これは、飲食店は、立ち退きを行うことにより、顧客を失いやすく営業補償が認定されやすいことと、営業休止が必要になったり、設備や動産等に関する移転費用や設備補償が高めに認定されやすいことに起因するものと考えられます。
但し、この辺りは、事例ごとに判断が変わるため、立ち退きを求められた際には、早期に弁護士に相談に行って頂くことをお勧めいたします。
4.最後に
今回は、飲食店の「立ち退き料の相場」について、解説しました。
当事務所は、1983年創業の法律事務所であり、これまで多数の立ち退き案件に携わってきました。
特に、立ち退きを求められた借主側での対応に注力しており、立ち退き案件について、確かな実績とノウハウを確立しています。
以下は、過去に当事務所が解決した立ち退き案件の一例です。
■立ち退き案件の解決事例
①立ち退き交渉で当初立退料950万円から4500万円に増額させた事例
また、立ち退き料の内訳について、解説した記事も併せて、参考にされて下さい。
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1983年の創業以来、京都市を拠点に企業法務に注力してきました。現在では、東証プライム上場企業から中小企業、ベンチャー企業まで、約50社の顧問弁護士として継続的なリーガルサービスを提供しています。
労働問題、債権回収、クレーム対応、契約書のリーガルチェック、事業承継など、企業活動におけるさまざまな課題に対応しており、数億円規模の訴訟案件など、訴訟・紛争案件の解決実績も豊富です。
京都府(京都市北区・上京区・左京区・中京区・東山区・山科区・下京区・南区・右京区・西京区・伏見区・長岡京市・八幡市・京田辺市・宇治市・亀岡市・城陽市・向日市・福知山市・舞鶴市・綾部市・宮津市・京丹後市・南丹市・木津川市など)、滋賀県、大阪府を中心に、全国の企業様からのご相談にも対応しております。
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