退職した元従業員による顧客の引き抜きは違法?企業側の弁護士が解説

企業運営をしていると、退職した元従業員が自社の顧客を引き抜いてくることもあります。

このような顧客の引き抜きは、法的に許されるのでしょうか。

今回は、退職した元従業員による顧客の引き抜きが合法かについて、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説します。

1.元従業員による顧客の引き抜き

元従業員による顧客の引き抜きは、原則として、合法とされる傾向にあります

これは、在職中と異なり、退職後の元従業員には、競合行為等により、自己又は第三者の利益を図るために、使用者に損失を与えてはいけないという誠実義務が認められないためです。

もっとも、裁判例において、下記のような場合には、元従業員による顧客の引き抜きを違法とする傾向にあります

会社の経営を左右するほどの重大な損害を発生させる場合

退職時に作成した誓約書に顧客の引き抜きを行わないと記載されているにもかかわらず、引き抜きを行った場合

その他、社会的相当性を逸脱したと評価されるような場合

なお、②のケースでは、そもそも、その誓約書が有効かという問題が発生することは、注意が必要です。

2.在職時から顧客の引き抜きを行っている場合

上記の通り、元従業員が退職後に顧客の引き抜きを行った場合には、原則として合法とされる傾向にあります。

もっとも、退職後に顧客の引き抜きを行ってくる従業員は、在職時であっても、独立や転職が決まった時点から、顧客の引き抜きを行っているケースもあります。

このような場合には、当該従業員の在職時の引き抜き行為をもって、違法であると主張することが考えられます

在職中の従業員には、「競合行為等により、自己又は第三者の利益を図るために、使用者に損失を与えてはいけないという誠実義務」が認められます。

そのため、裁判所も、在職時の引き抜き行為は、違法と認定してくれやすいためです

■弁護士費用が請求できる場合も

裁判官によっては、在職時の引き抜き行為の違法性が大きい場合には、誠実義務違反のみならず、会社に対する不法行為を認定してくれる場合もあります。

例えば、自社が商談を行っていたにもかかわらず、その従業員が転職先に顧客を受注させ、自社が顧客と契約する機会を失わせた場合などです。

このようなケースでは、弁護士費用全額ではないものの、裁判官が認定した会社の損害額の1割を、弁護士費用分の損害として認定してくれることがあります。

3.顧客の引き抜きをどうやって防ぐか

顧客を引き抜かれると、自社の経営状況が急激に悪化する危険があるため、企業としては、適切に対策を講じる必要があります。

詳細な解説は、別のコラムに譲りますが、入社時の誓約書、②就業規則の規定、③退職時の誓約書、④違反者への損害賠償請求などの対策が考えられます

但し、①から③の誓約書や就業規則の規定については、裁判になった際に、無効であるとの主張を受けることが多いため、引き抜きの問題に詳しい弁護士の関与のもと、適切に作成することが重要です。

実際に、裁判において、誓約書や就業規則の規定が、無効であると認定されているケースも多いです。

4.最後に

今回は、退職した元従業員による顧客の引き抜きが合法かについて、企業側で労働問題に注力する弁護士が解説しました。

顧客の引き抜きの問題については、事前に対策を打っておくとともに、実際に問題が生じた際には、弁護士に依頼をして適切に対応を行っていくことが重要です。

また、顧客の引き抜きが問題になる企業の場合、傾向として、従業員が引き抜かれるとの問題が発生する可能性も高いため、こちらについても対策を打っておくことが重要です。

京都の益川総合法律事務所は、1983年の創業以来、東証プライム企業から中小企業、個人事業主の方の顧問弁護士として、これまで数多くの労働問題を解決してきました。

本件のような、元従業員による顧客の引き抜きの問題についても、多数の対応経験を有しております。

顧客の引き抜きについて、お悩みの事業者の方がおられましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。

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