テナントの立ち退きの際には、多くのケースで「立ち退き料」が問題となります。
そこで今回は、「立ち退き料」とは何かや、主な内訳について、借主側での立ち退き案件に注力する弁護士が解説します。
このページの目次
1.立ち退き料とは
「立ち退き料」とは、建物明け渡しにより借主が被る移転費用やその他の損失を補償するための金銭を指します。
借地借家法28条により、貸主が契約更新を拒絶したり、解約を申し入れるためには「正当事由」が必要とされています。この「正当事由」を補充するための要素として、「立ち退き料」が位置付けられています。
実務上、立ち退き料の金額は、極めて重要な要素となっており、立ち退き料がいくらになるか次第で、借主側の決断が変わることも珍しくありません。
2.立ち退き料の主な内訳
それでは、「立ち退き料」の判断に際しては、どのような要素が考慮されるのでしょうか。以下では、多くの裁判例で考慮されている要素を、一つ一つ見ていきます。
(1)移転関連費用
まずは、移転関連で発生する費用です。
この費用には、①引っ越し費用、②新しい賃貸契約のために必要な礼金・仲介手数料、③移転通知費などが含まれます。
なお、新しい賃貸借契約のための敷金については、将来的に返還されるものであるため、敷金自体は費用として計上していない裁判例が多いです。
但し、現在の契約を解除したことにより返還される敷金が、新しい契約の敷金の金額に足りない場合には、この足りない差額部分の運用益(運用期間は10年ほど)を、移転関連費用として計上している裁判例も存在します。
(2)新規賃料と現行賃料との差額(賃料増額分)
次に、移転先の賃料と現在の賃料との差額に関する損失です。
例えば、移転先の賃料が月額100万円、現在の賃料が月額50万円であれば、この賃料差額の月額50万円が損失になります。
但し、裁判の際に、移転先の賃料として認められるのは、現在の建物と同種同等の建物の賃料です。移転先をグレードアップさせた場合に、そのグレードアップさせた賃料との差額までは認められないことに、注意が必要です。
また、この賃料差額分の損失については、無制限の期間が認められるわけではなく、概ね1年間~3年間の期間の損失が認められています。
■具体例
移転先の賃料が月額100万円、現在の賃料が月額50万円で、移転先の建物も現在の建物と同種同等の建物である。
この場合には、賃料差額分50万円×1年間~3年間の期間に相当する損失が認められる形になります。
1年間の場合には600万円(50万円×12か月)、3年間の場合には1800万円(50万円×36か月)となります。
(3)工作物の補償(移転先の内装工事費用)
次に、工作物の補償です。この工作物の補償には、物理的・経済的に移設が困難な工作物についての費用が含まれ、主に内装工事費用が問題になってきます。
この工作物の補償については、貸主側から、①既に減価償却済みとなっている古い工作物の費用についてまで補償するのは認められないであったり、②立ち退き料の算定の際に、移転先の内装費用全額までをも認めることはできない等との反論がされることが多いです。
しかし、①について、減価償却済みであっても、現実には価値を有する工作物については、補償の対象とすべきであり、裁判例でもこの点を含める判断をしている方が多いです。
もっとも、②については、内装費用全額を立退料の対象とするのでは、賃貸人の負担により経年した工作物を新品と入れ替えることになり妥当ではないと判断している裁判例もあるため、注意が必要です(事例ごとに判断が分かれている印象です)。
(4)営業再開までの休業損失
次に、移転に伴い、休業が必要になる場合には、休業損失が算定されます。
予想される休業期間に、営業利益等を掛けて、休業損失を算定することになります。
また、休業期間中の従業員に対する手当相当額の補償なども、損失として認定されることが多いです。
(5)移転による顧客喪失等の損失
次に、移転によって顧客を失うことに対する損失の補償です。
居酒屋・喫茶店・レストランなどの飲食店、スーパーマーケット、美容院や整体院など、移転により一時的に顧客を失って、収入の減少が見込まれる場合には、その減少分が補償されることになります。
この減少分や、減少期間については、具体的な事案ごとに、証拠に基づき適切に主張していくことが重要です。
(6)借家権価格の補償
借家権とは、借地借家法が適用される建物の賃借権のことを言います。
そして、借家権価格の補償とは、借主は、借家権自体に認められる財産的価値を建物の明渡しに伴い、喪失することから、これを補償しようとするものです。
最近の裁判例を分析すると、この借家権価格の補償を行っているものと、行っていないものがあり、その割合も半数ずつぐらいになっています。
■細かい話の部分
この借家権価格の補償を行う場合には、上記(2)の「新規賃料と現行賃料との差額(賃料増額分)」は考慮されない取り扱いになっています。
これは、借家権価格の中に、上記(2)の差額賃料の補償も含まれているので、借家権価格の他に、上記(2)の差額賃料の補償を行うと、二重計上になってしまうためです。
そして、上記(2)の差額賃料の補償だけではカバーしてきれない価値が、借家権価格に存在する場合(借家権の取引慣行がある場合など)には、借主側は、借家権価格についても積極的に主張していくべきです。
なお、あくまで私見ですが、最近の裁判例において、借家権価格の補償を行っていない事例は、借家権価格に、上記(2)の差額賃料の補償だけではカバーしきれない価値が含まれていない事案(なので、わざわざ別途借家権価格を考慮する必要のない事案)のように思われます。
3.最後に
今回は、「立ち退き料」とは何かや、その主な内訳について、解説しました。
立退料の提示を受けて、その金額が妥当か否か、お悩みのテナント(借主)の方は、まずは、弁護士に相談されることをお勧めします。
なぜなら、立退料の金額が妥当かを、自社のみで判断することは困難だからです。
当事務所は、1983年に創業した法律事務所であり、これまで多数の立ち退き案件に携わってきました。
特に、立ち退きを求められた借主側での対応に注力しており、立ち退き案件について、確かな実績とノウハウを確立しています。
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①立ち退き交渉で当初立退料950万円から4500万円に増額させた事例
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